はじめに
教育TVの「モーガン・フリーマン 時空を越えて」という番組、ご存知でしょうか? めちゃシブおじいさんことモーガン・フリーマンがナビゲーターを務め、先端科学や哲学の領域をご紹介するドキュメンタリーで、割とモーガン・フリーマンの無駄遣いという感じを押し出しつつ、研究者のインタビューや再現CGなどがばんばん出てきます。
昨日(2016年4月27日)は「宇宙を支配する法則は何か?」と題して、量子力学の先端研究について紹介していました。そのなかで、もっとも興味を引いたのは、MITのバウンシングドロップと量子論の類似性、そしてパイロット波の可視化という話。
というわけで本日は予定を変更して、量子論のパイロット解釈について考えてみようと思います。
二重スリット実験
以前の量子論のお話のときにサラッと言葉だけ出てきたかもしれない「二重スリット実験」。科学誌の読者投票で「もっとも美しい実験」に選ばれるなど、手法はシンプルでありながら、結果は劇的な様相を呈します。
実験自体は古くからある思考実験(実際には行わず、頭のなかだけで行う実験)でしたが、20世紀入り技術が進歩したことで複数の研究施設が実際に行いました。
有名なのでご存知の方も多いかもしれませんが、量子論の真髄、根幹とも言えるこの実験。実際に行ってみると、非常に明確な結果を生み出しました。
なお、それだけ重要なのになぜ深くご紹介しなかったかといえば、図版作りがとても面倒くさかったからです。もう本当に。でもやりました。いつものざっくり図解です。
というわけで実験内容を見てみましょう。
まず一枚の衝立に2つの切れ目(スリット)を入れます。
さて、この衝立を壁の前に置いて正面からスプレー塗料を噴射したらどうなるでしょうか?
スプレー塗料を拡大するとインクの粒ですから、一部は衝立に遮られ、スリット部分に当たる粒のみが通り抜けて、壁に到達しますね。
上から見るとこんな感じでしょう。
ならば、壁にはどんな模様が浮き上がるか? これも考えるまでもありません。スリットの形をなぞった模様が浮かび上がるはずです。マスキングの効果ですね。
壁に浮き出る模様は、スリットの形。ここまでは何の不思議もありません。
では今度は、衝立を水に浸けて、波を立ててみましょう。今度はどうなるでしょうか?
波という現象は左右両方のスリットを通り抜け、衝立の反対側に進みます。
さて、ここで注意しなくてはいけないのは、衝立の反対で波の発生源が2つになっていることです。
2方向から生まれる水面の波。ぶつかり合うとどうなるでしょうか?
この丸で囲んだ部分です。波の山(盛り上がっている部分)同士がぶつかるとエネルギーが合わさってさらに大きな山になります。逆に波の谷(へこんでいる部分)同士がぶつかるとより深い谷になります。いたってシンプルな物理法則です。
すると、壁に到達した第一波の波は、このような形になります。
これを平面的な波ではなく、高さも含めて考えてみましょう。二次元的ではない「波」をスリットにぶつけてみるのです。
しかし結果は同様です。波が互いに干渉しあい、より強い部分と弱い部分に分かれるのです。
これを「干渉縞」といいます。干渉縞は光でも発生するため、比較的簡単に効果を目視できますね。
さて、ここからが本題です。
非常に小さな粒である「電子」を一粒ずつ発射できる銃を用意します。これは本当にあります。で、この銃で一発ずつ衝立に向けて「電子」を発射していくのです。
次々に、どんどん電子を打ち出していきましょう。50000粒くらい打ってみましょうか。さて、壁にはどんな結果が表れているでしょうか。
粒が衝立に向かって飛ぶのですから、スプレー缶と同じようなマスキングの模様でしょうね。
きっとこんな感じになるはずです。
しかし結果を見た研究者は目を疑いました。実際に壁に浮かび上がったのは、こんな模様だったのです。
あきらかに規則性のある「干渉縞」。しかし銃からは粒を一つずつ打ち出しているのです。一粒の電子は、いったい何に干渉されているのでしょうか? その答えはわかりません。
実験は次のタームに進みます。
粒の状態の電子を打ち出し、そして粒の状態で壁に着弾しているからには、右か左のどちらかのスリットを通り抜けているはず。ならば、どっちのスリットを通ったかカメラで監視してみよう。
スリットの横に監視カメラを設置して、再び電子銃から「電子」を打ち出しました。さあ、これでどんな状態でひとつの粒が干渉しあっているのかわかる! しかし、壁に目を向けてみると、そこに顕れた模様は……
は?
って言ったかはわかりませんが、結果は驚くべきものでした。
2つの実験の違いは、カメラを設置したか、していないか、だけ。言葉を変えれば、観察しているか、していないか。その違いだけで、結果が明確に変わったのです。
つまり観察すること自体が、実験に影響を及ぼしているのです。
観察していないとき↓
観測しているとき↓
再現可能な実験結果があれば、それがどんなに信じがたいことであっても科学です。
そして実験結果を逆算して解釈するのです。いかに印象的に受け入れがたくとも。
実験は示します。
- 非観測下の電子は波の性質を示す
- 観測下の電子は粒の性質を示す
- 観測の有無により実験結果は変化する
これは変えられない結果。ならば解釈するしかない。つまり「電子は観測しているときは粒で、していないときは波である」と。これが量子論の主流であるコペンハーゲン解釈ですね。
パイロット解釈までたどり着きませんでした。
続きは次回。
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